むかしばなし
伝兵衛がし
美里町 広木
児玉郡の南の端の方に、この辺としてはかなり高い山として、陣見山があります。その陣見山の北東側の山麓に近いところに、十二天祠があります。
この十二天祠への秋山口からの登山道を登っていくと、やがて鳥居があり、その鳥居をくぐりぬけてから、数十歩も進んでいくと、左側に樹齢何百年かと思われるカシの大木があります。この話は、そのカシの木にまつわる話です。
むかし、榛沢村(今の岡部町榛沢)に、伝兵衛という若者がいました。伝兵衛は、「力の強い人になりたい。」と思い、十二天祠に二十一日間の丑の刻(今の午前二時)参りの願をかけることにしました。夜の夜中に、さらし一反の端をはち巻きにし、家をでて、さらしを長くなびかせながら走り続け、十二天祠までかけ登るのです。
そして、それを二十一日間、どんなことがあっても、やり通そうというのです。真夜中に、白いさらしをひらひらさせながら走っている姿は、まるで、人間が空を飛んでいるように見えました。
やがて、満願の日がきました。伝兵衛は、井戸の水で体をきよめ、いつものように仕度を整え、家を出ました。野をこえ、丘をこえ、小川をわたり、山道をかけ登りました。そして、十二天祠に着きました。伝兵衛の顔には、願を果たした喜びと自信があふれていました。
伝兵衛は祠の前に立って、うやうやしく礼拝をすませ、山を下りはじめました。そして、カシの大木のところまで下りてくると、さらしのはち巻きをといて、カシの木にぐるぐる巻きつけました。伝兵衛は、嬉しさを押えながら、意気揚々と家にもどりました。
その後、伝兵衛は、家の仕事にも精を出しながら体をきたえ、力の強い、そして、思いやりのある立派な若者になり、やがて、気立てのやさしい、働き者のお嫁さんをもらって、しあわせに暮らしたということです。こんなことがあってから、だれ言うとなく、このカシの木を、「伝兵衛がし」(一)と呼ぶようになったということです。
※ (一)は十二天の参道にある、「寺戸の樫」で、美里町指定文化財になっている。
(美里町広報「みさと」より)